「家の板敷きを外した所、そこに千切れた子供の足があった」-これはホラー映画の一場面でもなければ怪奇小説でもない…平安貴族、藤原忠実の日記『殿暦』にある一文である。
現代だったら大事件になるどころか、第一発見者の当人は卒倒してしまうに違いないが、当時としては決して稀有な体験ではなかった。
「死骸都市・平安京」…そんな衝撃的な第一章を以って始まる本書からは、雅なイメージに隠された平安京の本当の姿を垣間見る事が出来ると同時に、中世の人々が如何に死者を取り扱って来たかという真実に迫る事が出来るであろう。
ところで、皆様は《九相図》という絵画作品をご存知であろうか。
これは人が死んでから白骨化するまでの九段階を描いたものだが、そのリアルさは、死体が朽ちていく様子を日々見知っている者でなければ絶対に描き得ないものである。
即ち、当時の人は実際にこのような光景を目にする機会があった事を意味しており、本書はその実情を解説してくれるのだ。
死体を放置するのが当たり前だった平安京の裏事情、或いは当時の人々の死体に対する概念を丁寧に紐解いていく本書は、読み始めた時こそは驚いたものの、それが当時の感覚では決して異常な事ではなく、それなりの理由もあった事を教えてくれたように思う。
そして、本書の中でも中核を成す「貴族の葬礼・葬法」へと展開するが、さすがに貴族ともなれば死体を放置する事はせず、厳かな儀式を以って丁重に取り扱っていたようである。
臨終と死の確認、入棺と出棺、葬列の手順、土葬と火葬、墓所の設置等など、当時の貴族達の日記を駆使しながら分析しているので、その実証性は確かである。
特に、出棺の際には通常の門は使用せずに敢えて垣を壊した事(然も貴族に限らず庶民までもが同様であった)は興味深く、或いは、葬列の際に往復の道を変える風習は現代にも残されているだけに、その歴史の深さを実感した次第である。
因みに、本書を通して貴族社会の葬送現場に立ち会えただけでも十分に勉強になったが、その他にも、一般庶民の葬送や共同墓地の発達、葬儀に携わる人々に関する論考も面白い。
鳥辺野や蓮台野に代表される葬送地の発展と“死骸都市”からの脱却、或いは、財力が無くとも死者を弔いたいという気持ちは、宗教者達の手助けや人が敬遠する仕事を引き受けてくれる人々の存在に依って(無償ではないが)叶えられ、中世の葬礼は整っていくのだ。
決して劇的な飛躍ではない…然しながら、緩やかにでも変化を遂げる中世の葬礼に、人々の意識の進化を実感したように思う。
中世の葬送を網羅している上に「死」の宿命に向き合った人々の諸相を読み解いた良書。
主題は重いが、その重さの分だけ多くを得る事が出来る一冊である。
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死者たちの中世 単行本 – 2003/7/1
勝田 至
(著)
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- 本の長さ266ページ
- 言語日本語
- 出版社吉川弘文館
- 発売日2003/7/1
- ISBN-104642079203
- ISBN-13978-4642079204
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内容(「MARC」データベースより)
死体が路傍・河原・野にあることが日常茶飯事だった中世。死者はなぜ放置されたか。「死骸都市」平安京での死体遺棄・風葬など、謎に包まれた中世の死者のあつかいを解き明かす。巻末に中世京都死体遺棄年表を付載。
登録情報
- 出版社 : 吉川弘文館 (2003/7/1)
- 発売日 : 2003/7/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 266ページ
- ISBN-10 : 4642079203
- ISBN-13 : 978-4642079204
- Amazon 売れ筋ランキング: - 485,338位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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2014年2月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
非常にわかりやすい形で、中世の死とその時代に生きた人々とのかかわりがわかりやすく、多くの史料をもとに書かれています。
2009年12月5日に日本でレビュー済み
死体処理という観点から実証的研究を積み上げ、その上で日本中世史を見直し、日本型の共同体と新仏教の形成を理解する枠組みを提示した画期的著作である。網野善彦の「無縁」概念を発展させる上で極めて貴重な業績だと考える。この観点から中国や韓国と比較してみると、全く新しい東アジア社会の分岐の歴史と、実質的な意味を持つ比較社会論を構成しうるであろう。21世紀の日本中世史研究の挙げたクリーンヒット。日本社会を理解する上で必読の文献であるが、死体と葬式の話ばかりなので、読んでいると気が滅入ってしまう。夜中に夢中で読んだりしないほうがいい。